メルセデス・ベンツ280SL (W113)

2018/12/07 12:00:00

メルセデス・ベンツ 280SL(W113)
A氏(東京都世田谷区)

「美しく仕上がったW113だから絵になるよ」と、友人の紹介にて東京・世田谷に在るA氏のガレージを訪問した。果たして快音を響かせながらガレージから出てきたのは、まさに新車と見紛うばかりの美しいメルセデス・ベンツ280SL1971年式だからW113型の最終版だ。それにしても良い雰囲気の『タテ目』である。

A氏がこの280SLを手に入れたのは5年くらい前という。もちろん、このようにレストアした状態の個体が販売されていたわけではなく、大きなコストと長い時間をかけて「新車状態」に生まれ変わったのである。

もともと、コンディションの良い車両だったとのことで、購入当初は少しずつ手を入れながら乗っていたらしい。すると、古い個所と新しくなった個所が混ざるようになり、それがいかにも中途半端で、一気に仕上げる決断をしたと話す。

「本格的に手を入れ始めてから3年ほどかかりました。その間は工場に入ったままで、つまり3年くらいは姿を見ることがなかったわけです(笑)」

ボディの塗装はもちろん、ほとんどすべての外装パーツや室内のパーツなどは新品に換装、2.8リッター直6 SOHCエンジンはオーバーホール、トランスミッションやサスペンション、ハーネスに至る細かい部分にまで手が入っている。

「とにかく交換できるパーツはすべて新品にしました。唯一、手に入らなかったのが、当時履いていたミシュランのホワイトリボン・タイヤ。悔しいです」と苦笑いするA氏。でも、クルマの話をする彼はとても楽しそうに笑う。

ところで、そもそも彼は英国車が好きで、新車で購入したセカンド・レンジローバーを20年・20km以上も乗っていたそうだ。

「すごく気にいっていたので普段の足にしていたのですが、この前、ついにパワステとブレーキが壊れて泣く泣く手放しました」。ちなみに、古いメルセデス・ベンツはずっと気になっていて、「良い個体があれば」と探していたという。

「走らせてみると、街中も高速道路も普通に運転できるわけです。新車の状態に仕上げてあるわけですから、当然と言えば当然なのですが、それにしても基本設計が1960年代の市販スポーツカーですよ。そのドイツの旧車が、半世紀後の日本で、現代のクルマに交じっても普通にストレスなく走れてしまう。やはりメルセデス・ベンツはすごい技術力を持つメーカーなのだと思います」

でも、まさか280SLを普段使いするわけにもいくまい。いや、その気になればできるとはいえ、さすがにもったいない。「はい、だから新車のルノー・カングーを購入しました(笑)」。なるほど、すでに280SLを楽しむ準備は整っているわけだ。さすが、クルマ趣味人である。


最後に、ヤングタイマーと呼ばれるクルマの魅力とは? という質問を向けてみた。

「古いクルマは、自分の手で操っている感覚が強くていいですね。ベルトラインが低くて、ピラーも細く、電子デバイスは必要最低限のものしか付いていない。だからクルマとの一体感があって、きっと不具合の修理や古いパーツの交換なども含めて所有する喜びにつながっていくのでしょうね。最近のクルマはスイッチが多く、使い方が複雑で良く分からないし、そもそも使わない機能が多すぎるような気がします。とにかく、自分の手で運転している感覚が希薄で、一言でいえば、楽しくないのです」

この1971年式メルセデス・ベンツ280SLは、2018年にタイムスリップしてきた新車といっても過言ではない。ただし、すべてが純正部品ではなく、左回りのメーター(当時、ワークスのラリーカーがこのタイプを使用)や、ナルディのステアリングホイール(イタリアのオークションで落札した同じ年代のオリジナル)など、彼のセンスもしっかり反映させてある。終始笑顔で取材に対応してくれたA氏、これから280SLとの蜜月が待っているのだろう。